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こだわり3 萎凋(いちょう)について

  • 執筆者の写真: s.kazuki
    s.kazuki
  • 2021年1月12日
  • 読了時間: 3分

戦後くらいまでの日本茶にはなされていて、現在はほとんどされなくなった製茶の作業がある。

それが 萎凋(いちょう) である。





萎凋とは、収穫した茶葉を風通しの良い暗所で放置または定期的にかき回し、微発酵を促す工程だ。

ただし、良きところで発酵を止めないと今度は腐敗臭に繋がる。

その見極めが年によっても環境によっても違うので、職人的な難しい技術となっている。


きちんとやるとすると、数十分〜数時間おきに茶葉が蒸れないようにひっくり返す必要がある。この作業は夜通し行うこともあり、この微発酵が花のような香りを生み、茶の良い香りの発揚の為には本来不可欠の工程である。



一昔前の日本茶には当たり前のようになされていたが、重労働であることや効率化のみを求めた結果、現在これを行っている生産家は極めて希少で熱意ある生産家だと言える。

現在、萎凋がきちんとなされたお茶はとても貴重なので、出逢うことがあればお買い求めになることを強くおススメする。







そもそもこの萎凋がなぜ香りに影響するのか。


萎凋は主に「萎(しお)れさせる」「攪拌(かくはん)させる」作業がある。萎れさせることで水分欠乏のストレスを与え、攪拌させることで葉の細胞膜が傷つけられてここでもストレスを受ける。

これにより様々な香気成分が作られるが、その中の代表的なものにゲラニオールとリナロールがある。それぞれ下記のようなものである。


○ゲラニオール:バラのような香り。

     抗菌・抗ウイルスや免疫力を調節してくれる作用がある。

○リナロール:ラベンダーやベルガモットのような香り。

     主に鎮静作用に優れており、抗不安作用、血圧降下作用、抗ウイルス作用など。



これらの香気成分は、香気生成酵素の力によって生成される。香気成分は最初、香気前駆体(香気成分の元)として茶葉の液胞に存在しており、香気生成酵素(化学反応を促進させる物質)は、茶葉の細胞膜あるいは細胞間隙に存在している。この香気前駆体と香気生成酵素が出会うためには、細胞膜を傷つけて壁を壊す必要がある。そこで攪拌が行われる。


詳しくは下記の図をご覧ください。





まとめると、収穫した茶葉に水分欠乏と攪拌によってストレスを与えることで香気成分を生成させる。さらに攪拌によって細胞に傷をつけ、香気成分と香気生成酵素が反応し茶の香りへと繋がる。




萎凋が放棄された原因はいくつか考えられるが、その中の大きな一つに全国茶品評会(以下、全品)の評価基準がある。全品では、萎凋香は腐敗臭として片付けられてしまう。

萎凋は茶の製造工程において、本来不可欠のものだ。この評価基準は非常に残念でならない。


萎凋の放棄は、香りが失せ、選択肢が減ることなどからも消費者目線ではない。

萎凋をしない方がいい茶も中にはあるし、しない方が好きという人も当然いるだろう。その選択は本来、消費者に委ねられるべきである。

しかし、全品の評価基準で萎凋を評価せずむしろマイナスに扱うことで、事実上排除したことは消費者不在の明らかな間違いであると考える。現状、萎凋の香りを排除した代わりに、新鮮香などという訳の分からない言葉を作り、茶の本質である香りを大いに乱している。



近年、茶価の低迷やリーフ離れがにわかに騒がれることがあるが、そもそもこのような現状では当然のことではないだろうか。

もっと率直に申し上げれば、自業自得以外の何物でもない。




茶生産家の方々も生活をしていかねばならない。そうなると、どうしても効率化を考えるのは当然だ。萎凋に興味がありやってみたいと思っても、やはりこの評価基準に沿った作り方にならざるを得ないのだと思う。


その中でも、本気で香りと消費者のことを考えて萎凋の手間を惜しまず生産をされている方がいらっしゃいましたら、是非当社で積極的に取り扱わせていただきたいと考えております。




 
 
 

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