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  • 執筆者の写真s.kazuki

番茶~日本人のソウル飲料~(11/12)「今後は萎凋を」

〇4章 今後はどうしていくべきか

 

 結論から言えば「香り」と「飲みやすさ」を重視した茶を増やした方がよいと思う。これが選択肢を増やすことにも一役買うはずだ。

 今までは旨み重視のやぶきた深蒸し茶がもてはやされてきた話をしたが、最近はやぶきた以外の品種も取り扱うところが増えてきており、選べることがとても楽しく嬉しい。

 そこからさらに、味ではなく「香りを重視した茶」を増やしていくべきだ。そうなると、必然的に無農薬かつ有機低肥料(または無肥料)にもなってくる。



より良い香りのために萎凋を

 

 香りを重視するとき、萎凋(いちょう)が重要なカギになるはずだ。少し萎凋の話にお付き合い頂きたい。

 萎凋とは、収穫した茶葉を風通しの良い暗所で放置または定期的にかき回し、微発酵を促す工程だ。ただし、良きところで発酵を止めないと今度は嫌な腐敗臭に繋がる。その見極めが年によっても萎凋を行う環境によっても違うので、難しい技術となっている。主に太陽光に当てないで行うのを「室内萎凋」、太陽光に当てて行うのを「日光萎凋」と言ったりする。

 きちんとやるとすると、数十分〜数時間おきに茶葉が蒸れないようにひっくり返す必要がある。この作業は夜通し行うこともあり、この微発酵が花のような香りを生む。品種によっても、バニラのような甘い香りもあれば、マスカットやキウイフルーツのようなさっぱりした香りになるものもある。

 茶の良い香りの発揚の為には本来不可欠の工程である。

 一昔前の日本茶には当たり前のようになされていたが、重労働であることや効率化のみを求めた結果、現在これを意識的に行っている生産家は極めて希少で熱意ある生産者だと言える。


 そもそもこの萎凋がなぜ香りに影響するのか。

 萎凋は主に「萎(しお)れさせる」「攪拌(かくはん)させる」作業がある。萎れさせることで水分欠乏のストレスを与え、攪拌させることで葉の細胞膜が傷つけられてここでもストレスを受ける。

 これにより様々な香気成分が作られるが、その中の代表的なものにゲラニオールとリナロールがある。

 


・ゲラニオール:バラのような香り。

        抗菌・抗ウイルスや免疫力を調節してくれる作用がある。


・リナロール:ラベンダーやベルガモットのような香り。

       主に鎮静作用に優れており、抗不安作用、血圧降下作用、抗ウイルス作用など。



 これらの香気成分は、香気生成酵素(化学反応を促進させる物質)の力によって生成される。香気成分は最初、香気前駆体(香気成分の元)として茶葉の液胞に存在しており、香気生成酵素は、茶葉の細胞膜あるいは細胞間隙に存在している。この香気前駆体と香気生成酵素が出会うことで花のような萎凋の香りに繋がる。これらが出会うためには、細胞膜を傷つけて壁を壊す必要がある。そこで攪拌が行われる。

以下、太陽光に当てない室内萎凋を例に図で説明していく。





 まとめると、収穫した茶葉に水分欠乏と攪拌によってストレスを与えることで香気成分を生成させる。さらに攪拌によって細胞に傷をつけ、香気成分と香気生成酵素が反応し茶の香りへと繋がる。



 萎凋が放棄された原因はいくつか考えられるが、その中の大きな一つに全国茶品評会の評価基準がある。ここでは、萎凋の香りは腐敗臭として片付けられてしまう。萎凋は茶の製造工程において、本来不可欠のものだ。この評価基準は非常に残念でならない。限られた地域などでは萎凋をきちんと評価する所もあり、そういったところが今後大きく広がってほしいと願う。

 萎凋の放棄は、香りが失せ、選択肢が減ることなどからも消費者目線ではない。

 萎凋に馴染まない茶も中にはあるだろうし、しない方が好きという人も当然いるだろう。その選択は本来、消費者に委ねられるべきである。しかし、過去この評価基準で萎凋を評価せずむしろマイナスに扱うことで、事実上排除したことは消費者不在の明らかな間違いであると考える。


 萎凋した茶はスッキリとした花のような香りが広がり、鼻から抜けていく。また、上手く萎凋がなされたものは飲んだ後も口の中に香りが残る。香りの余韻こそ、茶を楽しめるものだと思う。ただし、間違っても萎凋香をただ単に茶葉に付けるなどという愚行を行うべきではない。そういった消費者を馬鹿にしたようないい加減な行為がさらに衰退を招く。

 萎凋はそれ自体も技術習得にも時間のかかる事だと思うが、生き残りを懸けることを考えたら是非やってほしいと思う。今は萎凋というと煎茶にかけることがほとんどだが、ぜひ番茶にこそかけてほしい。飲み口が軽く香りも良いとなれば、日本人の日常茶にぐっと近づけるはずだ。



 また、飲料という性質上もっと「飲みやすさ」も考えるべきだ。このことは何度でもいうが、飲みづらいものを買って飲もうとは思わないだろう。体調が優れなくても、老若男女問わず飲めるソウル飲料には飲みやすさは欠かせない。

 それを満たせるものの一つが番茶だ。

 はっきり言って、商品的な華やかさは少ないが、だからこそ長く暮らしに根付くものになりえる。現に、西側ではそういった文化が残っている場所もある。真に日本人の暮らしに根付くことができれば、それは独特なものとなって烏龍茶を含む中国茶・紅茶などにはない特徴を備えた日本のお茶になると信じている。番茶は特に中国茶や紅茶、高級茶などにない「軽さ」という性質を持っている。番茶特有の性質と栽培方法によって、世界に向けても自信をもって出せる日本茶のジャンルになるはずだ。




次回「日本人の日常茶には番茶」



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香りと飲みやすさにこだわった

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是非仕事の、勉強の、遊びの、人生のお供に...。




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